改正民法と住まいに関わる契約の注意点 その2
- 2020年6月12日
- ナビコラム
~瑕疵から契約不適合へ~
耳慣れない言葉ですが、住宅に不具合等があった際に、「瑕疵(かし)がある」といった言い方をします。「瑕疵」はもともとは法律的用語で「欠陥」に近い意味ですが、今回の民法改正で「瑕疵」が「契約不適合」に変わり、民法からその言葉がなくなりました。では、そもそも瑕疵とはどういう意味だったのでしょうか?
従来の解説では、瑕疵とは「通常有すべき性能を有さないこと」とされていました。ちょっとわかりにくい言い回しですが、その内容としてまず考えられるのは、「契約内容に適合していないこと」でしょうか。契約と違う建物=瑕疵がある建物、というのは分かりやすいですね。ただ、ここで困るのは、実社会では「どういう建物を建てるか」「どういう建物を売買するか」ということが曖昧なまま、契約に至っている事例が、ままあることです。契約内容が曖昧だと、もし何か問題が発生した場合に「契約に適合していない」とは言いにくいかもしれません。ただ、「通常有すべき性能」という観点からは、契約書には明示されていなくても、社会通念と比べてあまりにも性能が低かったり、工事が粗雑であったりすれば、瑕疵と判断される可能性がありますし、明らかな施工ミスや手抜き工事、建築基準法等の関係法令への違反も通常とは言い難いですから、瑕疵と判断される可能性が高いと考えられていました。
では、この「瑕疵」が「契約不適合」に置き換わった場合、どうなるのでしょうか。契約に書かれていないことは契約不適合とは言い難いので、ますます契約内容の明確化が求められる、との見解があります。これは改正民法からの要求と言うだけでなく、現代社会における自然な流れとも言え、住宅レベルでも、詳細な設計図書を作成することが求められることになります。ただ、例え契約書に明記されていなくても、社会通念上当然とされることを広い意味で「契約内容」と捉えることも可能ですから、前述の二点目、三点目に関しても契約不適合と捉えることが可能となり、結局現在の瑕疵判断と大きく異なることはないだろう、との考えも有力です。
こういった点は、今後実務の中で明らかになっていくと思われますが、契約内容を明確化しておくことは、なによりの「転ばぬ先の杖」となります。契約に先立ち、その内容を明確化できる詳細な設計図書(図面と仕様書)を揃えるのは、本来的には専門家である事業者の責任であるべきですが、住宅取得者からも、是非、その準備をするように働きかけて下さい。
(その3 ~住宅の請負契約、どこが変わる?~ につづく)
(注記)
本コラムは、建築士の立場から見た改正民法の住まいづくりへの影響について、個人的見解をお話しているものです。改正民法や契約などの詳細については、弁護士等の法律専門家にご相談くださいますようお願い致します。
住まいのナビゲーター
一級建築士 金山 眞人
次回のナビコラムは
住まいのナビゲーター 松江 真理さんの「日本の住まい 欧米の住まい その2」です。
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