名庭園を訪ねる その5

名庭園を訪ねる その5

~京都・西芳寺庭園~

別名「苔寺」として知られる西芳寺の庭園は、日本の庭園美を代表する庭と言えましょう。ところが、この庭園は、創建時は現在の詫びた風情とは全く異なる、明るく華やかな池泉式回遊庭園だった、というと、多くの方は驚かれるのではないでしょうか。ある意味、現在の苔むして侘びた風情は、庭園作庭者の意図したものではなく、偶然の賜物ともいえるものなのです。

西芳寺中興の祖、夢窓疎石(12751351)が西方寺に入山したのは1339年と言われていますが、その時点で、奈良時代に建立されたと言われる伽藍は、かなり荒れていたようです。疎石は寺を再興して名を「西芳寺」と改めると共に、以前からあった池や石組みを活かして庭園を再整備し、瑠璃殿を始めとする華やかな楼閣建築を設けました。再整備後の西芳寺を訪れた足利義満は、その素晴らしさに感激し、鹿苑寺(金閣)造営の参考としたことからも、その豪壮さが伺えます。ところが、せっかく疎石により再興された西芳寺ですが、その後、またしても戦乱や洪水による荒廃に見舞われます。その間に足利義政が訪れ、慈照寺(銀閣)の参考にしたというエピソードも伝えられていますが、江戸末期にはますます荒廃が進み、庭園全体が苔で覆われるに至りました。現在我々が知る、苔寺としての西芳寺には、いわば廃墟の美学とも通底するところもあったのですね。

ところで西芳寺と言うと、この苔むしたエリアのみが注目されてしまいがちですが、実は、庭園は池泉式回遊庭園である苔むした下段部分と、枯山水庭園である上段部分からなっており、この上段部分にこそ、疎石作庭の痕跡が色濃く残ると言われています。「苔寺」の優しいイメージからは外れますが、その荒々しいとも見える豪壮な石組みは、注目に値します。

まさに西芳寺庭園は、作為と自然が時間の流れの中で織りなされることで誕生した、他に例のない庭園と言えるでしょう。
庭園内には、数棟の建造物がありますが、桃山期に千利休の養子である千少庵が再興したと伝えられる茶室「湘南亭」(重要文化財)は、開放的な庭園建築の中に茶室が組み込まれており、利休の厳しい侘び茶の世界感とは少し異なった、たおやかな風が感じられる建築となっています。

拝観には往復はがきによる事前申し込みが必要ですが、やはり一度は見ておきたい名庭園です。

〔基本情報〕
住所:京都市西京区松尾神ケ谷町56
嵐山方面からバス15分 「苔寺・すず虫寺」バス停下車 徒歩3分

見学(拝観):可

住まいのナビゲーター 
一級建築士 金山 眞人 

次回のナビコラムもお楽しみに♪

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#庭園

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