名庭園を訪ねる その6
- 2022年1月20日
- ナビコラム
~黒石・金平成園(澤成園)~
青森県では近年、「大石武学流」と呼ばれる庭園の評価が高まっており、文化財にも次々指定・登録されている様子です。金山も2019年に建築家協会の弘前大会が開かれた折に何庭か拝見しましたが、中でも、最近整備が完了して面目を一新した、黒石市の「金平成園」(屋号から地元では「澤成園」とも呼ばれる)の素晴らしさに打たれました。
ところで、「大石武学流」、あるいは「武学流」とは何か、ですが、これは江戸末期に津軽地方で起こった作庭の流派のことだそうです。作庭に、宗家制度により伝承される流派がある、というのはとても珍しいのですが、残念ながらその発祥は詳らかではないそうです。武学流は明治30~40年代に隆盛を極め、300~400もの庭が作られたといいますが、大きな特徴として、座敷正面に礼拝石を据え、庭に祈りの場としての性格を持たせている点があります。これは依頼主に、当時津軽地方で盛んになったリンゴ栽培で財を成した農家が多かったからで、多くの庭に「農閑期、凶作時に庭に係る仕事を出して近隣農家を救済した」という逸話が残ることと合わせ、武学派と地域の関係がよく表れていると思います。
さて、「金平成園」ですが、地元の実業家・政治家、加藤宇兵衛が、明治25(1892)年から10年の歳月と、武学流宗家3代にわたる作庭を得て、明治35(1902)年に完成した池泉式回遊庭園です。池泉はなかなかに複雑な形状で、出島や石橋などの添景が適宜配されています。特徴的なのは、池泉の手前、座敷正面に据えられた礼拝石から、池泉奥に設けられた築山、滝組へと礼拝軸が構成されていることで、多くの日本庭園にみられる「神仙思想」由来の要素は用いられていません。また、護岸には洲浜の手法が使われておらず、築山ともども大ぶりな石を豪放に組んだ石組みで構成されていて、さらには、庭には、一般の日本庭園ではあまり見かけない、大きな木々が植えられています。これは、積雪に負けない雄大なスケール感と、現実的な耐久性を考慮しての手法ではないか、との印象をもちましたが、粗野にならないところが洗練ですね。明治36(1903)年竣工の主屋からの、庭を一望できる眺め(通常非公開)もまた、素晴らしいものです。
ところで黒石にはとても魅力的な伝建地区があり、地区内の蔵元「鳴海酒造店」さんには、「鳴海氏庭園」という、同じく武学流の庭園があります。こちらは中庭への作庭なので、広大な敷地に作庭された金平成園との対比も興味深いものがあります。是非併せて訪ねてみては如何でしょうか。
〔基本情報〕
住所:青森県黒石市大字内町4
弘南鉄道弘南線 「黒石」駅下車 徒歩8分
見学:可
住まいのナビゲーター
一級建築士 金山 眞人
次回のナビコラムもお楽しみに♪
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